新枕の夜

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毎年行われる御所での新年の儀式。   今日から14になり、「二条」という名を頂き正式に御所の女房となった私はその準備に追われていた。   追われている、といっても特にたいしたことはしてなかった。   私は上郎(本来別の漢字であるが、変換できない為、以後これで通す)女房である為、御所様(後深草院のこと)にお酒を御注ぎしたりといった比較的楽な役目しか賜っていない。       宮中での女房の地位は三通りに分かれる。   一番上が上郎女房。大臣格の家柄の姫だけがつける地位だ。私はこれにあたる。父は大納言であるがゆくゆくは大臣が約束されている家柄だからだ。なので私は「禁色」と呼ばれる赤い唐衣を着ることが許されており、今日の晴れの日に合わせて衣装を揃えていた。   次に中郎女房。大納言以下の家柄の娘がつく地位である。宮中の多くの女房はこれにあたる。   そして下郎女房。摂関家の家司の娘など、身分の低い者がこれになる。私とは縁遠い話であるのだけれど。     主な仕事は中郎女房達がしてくれるので、私はひたすらに御所様や御所様の御正室、東二条院様の御給仕役に回っていた。       ふいに、御所様が私の方を向かれて、優しく微笑まれた。「吾子もこれで女童ではなく、この御所の女房となったんだな」   感慨深げに呟く御所様に私はお酒を御注ぎしながら答えた。「御所様、私はこの御所で4つの時から育ちました。女童の時となんら変わりがあるとは思えませぬ」   すると御所様の隣にいた東二条院様がクスリとお笑いになった。「二条。これからは御簾の外に軽々しく出てはならぬということですよ。そなたはもう女房となり大人になったのですから。女童の時とはわけが違います。分かりますね?」   なるほど、東二条院様のおっしゃられることは正しい。私はもう大人になったのだから御簾の外に軽々しく出たりして殿方の視線に触れないよう気をつけなければならないのだ。   「はい。この御所にお仕えする女房として恥ずかしくない振る舞いができるよう、精進致します故‥」東二条院様に向かってゆっくりとそう紡ぎ出す。   すると東二条院様は満足したのか、それともお酒が回ったのか、「御所様。私そろそろ下がらせて頂いても?」   御所様は東二条院様の方を見ずに答えた。「あぁ、構わない。ゆっくり休みなさい」     そして東二条院様はお付きの女房に連れられ控えの間へと戻られて行った。
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