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「お前は、道で拾った財布を盗んだ。間違いないな?」
「はい」
「ではお前を逮捕する。いいな?」
「いいえ」
「なんだと。容疑を認めないのか」
「はい」
「減らず口をたたきおって。俺は警察だぞ。今すぐお前を刑務所にぶち込むこともできるんだぞ」
「いいえ」
「…今のは確かに間違ってる。刑務所に入れるか決定をするのは上のものだ」
「はい」
「まあともかく、お前が財布を拾ってポケットに入れるところを見ていた人が現にいるんだ。まだ認めないか」
「いいえ」
「認めるのか。やっと本当のことを言ってくれたか」
「はい」
「おかげでお前の罪は軽くなった。俺だって人が捕まるのを見ていい気持ちはしないからな」
「いいえ」
「なに。俺が、人が悲しむのを見て楽しんでいるとでも言うのか」
「はい」
「……お前はもうどうせ捕まる身だ。だから話してやろう。
そうだ。お前の言うとおり、俺にとって人が逮捕されるのは快感でしかない。
しかし、よく分かったな。お前は千里眼師なのか」
「いいえ」
「では、神か何かか」
「はい」
「なに、神だと。
俺は普段からイエス・キリストへの信仰は忘れたことがない。その報いとして、こうして俺の前に現れたというわけか。
神よ、先ほどからの私の無礼を許していただけるか」
「いいえ」
「では、私をどうするおつもりですか。殺すのですか」
「はい」
「どうか、どうかお許しください。
先ほどももうした通り、私は、今まで一度たりともあなたへのお祈りを忘れたことはございません」
「いいえ」
「ああ、何という素晴らしいお方。全てが見えていらっしゃる。
二年ほど前、朝から酔っていて1日だけお祈りを忘れたことをご存知なのですね」
「はい」
「神に殺人はして頂きたくない。ましてや私のような最低な人間を。
自尽させていただきます。この銃を、こんな良い目的で使うことが出来るなら本望です。こんな人間に会って下さって有り難うございます。
それでは、さようなら……」
(さてと)
S氏は心の中でつぶやきながら、この忌々しい病気も、時には役に立つんだなぁと考えた。
警察署を出て、のんびりと家に向かう。
─時には─
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