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そもそも彼女は、私が住むこの古城の丁度真下に広がる街のその外れの墓場でひっそりと眠っていた。
以前からこの古城の窓から望む街並みを見ていたのだが、ふとある時、街のとある一角で花屋の仕事に勤しむ彼女を見つけ、思わずときめいてしまった。
・・・しかし私は吸血鬼。
このような恐ろしい姿で彼女に近付く事など出来るはずもなく、虚しくこの城から見守るだけであった。
だが、転機は突如として訪れた。
しばらくして彼女は、忽然と街から姿を消した。
私は最初、何処かの家に嫁にでも貰われたのだろうと考えていたのだが、予想は遥かに違っていた。
ある日の晩、彼女の家から一つの棺が運び込まれていった。
そう、彼女は死んだのである・・・。
何が原因で死んだのかは分からない。
だが私は嘆く事も、悲しむ事もしなかった。
むしろ絶好のチャンスが訪れたと歓喜した。
私は早々と支度を済ませると、城を出、街を抜け、彼女が埋葬されたであろう墓地を探し、そしてそれらしき墓を見つけ早速それを掘り返した。
中には案の定彼女が、まるで未だに生きているかのようにひっそりと眠っていた。
私は夢にまで見た美しき彼女に、思わず軽く口付けをしてしまった。だが、その柔らかな唇はまるで氷のように冷たく、改めて私に彼女の死を実感させられた。
私はそんな悲しみに暮れる事は無く、ただ彼女の遺体を抱き抱えると、そのまま城へと向かった。
城へと着いた私は、早々と彼女の遺体を地下実験室へと運び、直ぐ様彼女の蘇生手術を開始した。
実験の最中、私の頭の中は蘇生した彼女との甘美で艶やかな素晴らしき場面がただただ渦巻いていた。
するとその度、彼女の蘇生がとても待ち遠しく感じられた。
それから長い時間を経て、西から太陽が昇り始めた頃、彼女は再び『人造人間』として蘇った。
私が持つあらゆる知識をふんだんに使い、出来る限りの手術を行って復活した彼女は、まだ何処と無くぎこちなく、残念ながら不完全のまま生を受けた。
だが、その時の私には関係の無い事。
例え不完全であっても、あの日の彼女に変わりは無い-、と思い込んでいたからだ。
私はただ、蘇生しても尚眠る彼女に優雅で妖しき月を例えて<ルナ>と言う名を与えた。
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