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季節は、紛れも無く冬だった。
暦の上では春だと言う日を、十日ほど過ぎたというものの──
要するに、寒い。
かじかみそうに凍える手に、息を吹き掛ける。
今日は朝からドキドキしっぱなしで。
せっかくの『イチダイケッシン』を、何度も何度も打ち壊してしまいそうになりながら…
やっと、ここまで来た。
あたしは、そっと溜息をついて背筋を伸ばす。
お菓子業界の陰謀だろうと、そんなことはどうだって構わない。
──そう。
今日は、一年に一回だけの、トクベツな日。
2月14日、バレンタインデー。
…はっきり言って、あたしはそんなに器用な方じゃない。
一世一代の告白を知らせた『親友』には、呆れ顔で言われたものだ。
『わざわざ手作りじゃなくても、既製品の方がいいんじゃない?今までお菓子作りなんて、したことあったっけ?失敗したら点数稼ぐどころか、全部ぶち壊しじゃない?』
イチイチ毎度毎度正しい彼女の台詞に珍しく従わずに、昨日の夜はキッチンをしっちゃかめっちゃかにしながら作り上げたのが、
今、大事に大事に捧げ持っている、チョコレート・ケーキだった。
出来上がった後、恐る恐る味見したそれは、微かに苦く──
それでいて、とても甘かった。
何で愛の告白の小道具がチョコレートなのか、
コドモのあたしにも、何となく解るような気がした。
不意にちらりと目の前を舞う、白い、小さな羽のようなものに…そっと顔を上げる。
──雪、か。
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