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そっと、首を伸ばして──様子を伺ってみる。
…間違いない。
どうしよう、来ちゃったよ!
待ち伏せしてるのに『どうしよう』も何も無いけど、あたしは再び襲って来た猛烈な『ドキドキ』と『バクバク』の狭間で、ケーキの箱を思わずぎゅっとやりかけて、慌てて力を抜いた。
話し声が、段々近付いてくる。
誰かと、一緒、なのかな。
──彼女、とか?
思わず曲がり角の手前に身を潜め、耳をそばだてる。
話し声は、一人分しか聞こえない。
どうやら──『彼』は、携帯で話しているかのようだった。
雪が…音も無く降りしきる中、夕方の静かな街角。
必要以上に、『彼』の声が、あたしにまで届く。
電話邪魔する訳にもいかないし、親しいひとならともかく…このタイミング、どうやって声をかけようか、何て呼び止めようかと考えていた矢先──
「まだ、見つかんねーのかよ」
『彼』の…厳しい口調に、その声音に、あたしは思わずどきりとした。
「──俺だって捜してるさ。でもなぁナギ、あんまし時間ねーんだよ。見つかり次第、俺に報せろ」
鋭い、口調。
「あー?解ってんだろ。あいつは、俺が…」
その後聞こえた動詞は、あたしからたやすく呼吸を奪った。
「殺す」
何の、話?
何の…会話?
『殺す』って──『コロス』って──
何…?!
頭の中が真っ白になったあたしに、追い撃ちをかけるように、言葉が降ってくる。
「まーな。今後、お前も気をつけろよ。もし俺達が猫だってニンゲンにバレたら──」
力が、完全に、抜けた。
あたしの手から、ケーキの包みが、落ちた。
ドサッ、という音が、静かな静かな街角に響き渡り──
慌てて屈み込んで拾いあげようとしたあたしの視界に、黒いブーツが飛び込んで来た。
頭の上から、声が聞こえる。
「悪ぃな、ナギ」
恐る恐る見上げると。
『彼』が、あたしを見下ろしていた。
形のよい唇が、こう動く。
「──今、バレたわ」
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