Snow Dance

4/18
前へ
/37ページ
次へ
  そっと、首を伸ばして──様子を伺ってみる。 …間違いない。 どうしよう、来ちゃったよ! 待ち伏せしてるのに『どうしよう』も何も無いけど、あたしは再び襲って来た猛烈な『ドキドキ』と『バクバク』の狭間で、ケーキの箱を思わずぎゅっとやりかけて、慌てて力を抜いた。 話し声が、段々近付いてくる。 誰かと、一緒、なのかな。 ──彼女、とか? 思わず曲がり角の手前に身を潜め、耳をそばだてる。 話し声は、一人分しか聞こえない。 どうやら──『彼』は、携帯で話しているかのようだった。 雪が…音も無く降りしきる中、夕方の静かな街角。 必要以上に、『彼』の声が、あたしにまで届く。 電話邪魔する訳にもいかないし、親しいひとならともかく…このタイミング、どうやって声をかけようか、何て呼び止めようかと考えていた矢先── 「まだ、見つかんねーのかよ」 『彼』の…厳しい口調に、その声音に、あたしは思わずどきりとした。 「──俺だって捜してるさ。でもなぁナギ、あんまし時間ねーんだよ。見つかり次第、俺に報せろ」 鋭い、口調。 「あー?解ってんだろ。あいつは、俺が…」 その後聞こえた動詞は、あたしからたやすく呼吸を奪った。 「殺す」 何の、話? 何の…会話? 『殺す』って──『コロス』って── 何…?! 頭の中が真っ白になったあたしに、追い撃ちをかけるように、言葉が降ってくる。 「まーな。今後、お前も気をつけろよ。もし俺達が猫だってニンゲンにバレたら──」 力が、完全に、抜けた。 あたしの手から、ケーキの包みが、落ちた。 ドサッ、という音が、静かな静かな街角に響き渡り── 慌てて屈み込んで拾いあげようとしたあたしの視界に、黒いブーツが飛び込んで来た。 頭の上から、声が聞こえる。 「悪ぃな、ナギ」 恐る恐る見上げると。 『彼』が、あたしを見下ろしていた。 形のよい唇が、こう動く。 「──今、バレたわ」  
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加