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「旅行の準備をしろ」
僕は耳を疑った。
この探偵事務所に勤めて2年、一度も遠方に出向くことはなく、ただただ地道に捜索(ペットや失せ物)やら調査(主に浮気)などをやってきた。
時には、近くのどぶ川を浚ったりもしましたよ、えぇ!!
まぁそんな探偵事務所に初めて、僕が勤めはじめて初めて遠方に出向く仕事が入った。
「氷昼さん、遂に事件が僕達を呼んでるんですね!?」
興奮しながら僕は椅子に座り依頼の紙を見る氷昼さん(この人が探偵であり僕の雇主)に机越しに詰め寄った。
氷昼さんは手元の紙から一時目線を外し、興奮する僕の顔に冷やかな視線を送る。
そして冷静に一言
「いや、これは旅行の誘いだ。大体さっきも旅行の準備と言ったはずだ」
紙と一緒に投げつけてくれた。
そのA4の紙にはワープロで書かれた綺麗な文字が五行ほど真ん中に並んでいた。
内容は、とある孤島で過ごさないかというものだった。
でも、遠くに行けるなら関係ないしと僕は興奮する心を抑えることなくはしゃいでいた。
この時は不思議に思わなかった。
日時や何泊といった時間のこと、差出人の名前が不明なこと、その他の不可思議な点に僕は何の疑問も持たなかった。
そんな僕を見つめて探偵一実神楽氷昼は肘をつき手を組んで顎をのせた体制で呟いた、にやりという笑みと共に。
「今は楽しめ、俺が出向く場所が平穏無事なわけがないんだからな」
僕はその言葉が耳に入らないほどはしゃいでいたらしい。
本当、この時の自分を殴れるならぼっこぼこにしてやりたい。
いやでも、そんなことしたら痛いの自分自身だ。
やっぱ止めとこ……
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