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昼間のホームはあまり人は多くなく、大きな荷物を運ぶことはあまり迷惑にならずそれは良かった。
それは良かったんだが、荷物が重い。
ガラガラとスーツケースを運んでいると氷昼さんが前を歩いている姿が目に入った。
「氷昼さ~ん、待って下さいよ」
氷昼さんは僕の呼びかけに応えるように振り向いた。
端整な顔が“笑み”を形作りこちらへと歩み寄る、それが僕の恐怖心を呼び覚ます。
ちょ、その顔は……なんですか、僕悪いことしましたか?
氷昼さんの笑顔にはろくな思い出がない。
面倒な事はこの笑顔のあとにあるんだ。
「なぁ、宗太」
ほら来た。
「下の名前を大声で呼ぶんじゃねぇ!」
鉄拳が頭を直撃。
すっげぇ……痛い。
「いや、でも氷昼さん、苗字では呼びづらいですよ」
若干泣きながら文句を言う。
氷昼さんはふん、と鼻を鳴らして踵を返し、先を歩いていってしまった。
本当に我が侭な人だなぁ。
「待って下さいよぉ~」
僕はスーツケースと自分のボストンバックを抱えて氷昼さんの背中を走って追いかけた。
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