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船を埠頭に寄せて僕達は島へと降り立った。
体調が未だにすぐれない僕はひとまず深呼吸をして安定した陸地での安心感を堪能することにした。
吸い込んだ空気は少し湿っていて、潮の香りがした。
それから僕は船を運転していた船員の方が下ろしてくれた荷物を持って埠頭を後にする。
少し歩いてふと気付くと氷昼さんがまだ来ていない。
振り向くと氷昼さんは船員さんと何か話をしているみたいだ。
少ししたら話は終わったらしく軽い会釈をしてからこちらにゆるゆると歩いてくる。
僕は氷昼さんを待つため歩みを止めた。
僕の視線の先には船がある。
船は器用に旋回してこの島から離れていく。
氷昼さんが僕の所に来るまで僕は船を見送っていた。
青く輝く海を白い飛沫が走っていく、その様を見ていた。
「何を呆然と船など見送っている、行くぞ」
いつの間にか氷昼さんが僕の所に来ていた。そこまで真剣に見ていたつもりはなかったのだが、しかし接近に気づかなかった辺りやはり船を見送るのに集中していたのかもしれない。
「あっ、はい。今行きます」
僕は慌てながら荷物を持ち直し、船に背を向けて歩き出した。
船はまるで逃げるように島を離れていく、今思えばそういう風に見えなくもなかった。
それはたぶん気のせいだったと、思うのだけれど。
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