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「別に着替えなくても大丈夫ですよ、マギー。サルは何を着ていてもサルなんですから」
滑らか且つ穏やかで――甘く優しい響きの、厭味。
オイラは痛む額を押さえながら眉をしかめ、ゆっくりと首だけで彼を振り返った。
「分かってないわね、小汚いサルだからこそ着飾るのよ」
サルの形容がグレードアップしてますマギーさん。
「記憶力に乏しい低脳なサルを着飾った所で、何の得にもなりませんよ。そうですよね、サル?」
「はは、そっスねー……」
何でそこで当人に振るかなぁ?
軽く癖のついた短い茶色の髪に、優しくておっとりした顔。浮かべる笑顔は常に紳士スマイル。物腰も柔らかくって、美形と言えば美形と言えなくもない。白馬の王子様を夢見る女の子なら、一目で恋に落ちそうな青年。
しかし。
それはあくまで「一目」の場合で……性格は最低最悪。岩場に優雅に腰掛けるエセ紳士の名は、リハルトっていうらしい。
ああほんとム・カ・ツ・ク!
「ほらよ、サル、これお前の分っ」
何だかその呼び名がすっかり定着してる気がする。
どさりとオイラの前にバックパックを放り投げたのは、料理人のウィーズ。ゆでタコみたいな色の特徴的な赤毛に、黒のでっかいゴーグルをつけてる。オイラ同様、これといって目立った顔立ちではない。常に堂々としてるというか、小さいことは気に留めないって感じだ。
さっきは一番勢いよくオイラを蹴りつけてたけど、後で彼はフライパンを武器として用いてると知った。これはやっぱり、手加減してくれたってことかな? うん、意外といい人かもしれない……と、思いたいのは山々だが、明らかにオイラの荷物だけ量が多い。ねえコレ、掛布とかぎっちり詰められてんですけど。
「さてと、そろそろ行きましょうか」
長剣を腰に携え、マギーが言った。彼に従い、リハルトが嬉しそうに刀を握り、フライパンをひっさげたウィーズがだらりと立ち上がる。オイラも二人に倣って立ち上がり、
「えと、その……出発するって」
岩場の陰に向かって呼びかけた。
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