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「……聞こえてる」
素っ気なくて刺々しい声。
陰から姿を見せたのは、『立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という言葉をいくつ唱えても足りないような、美少年。
中央で分けられた黒髪は、短いけれど、一瞥するだけでその艶やかさが手に取るように分かってしまう。
肌の白さは正しく雪みたいだ。何で焼けないのか不思議なくらい。
声も唄うように綺麗だけど……口調はウィーズよりもぶっきらぼうで、男らしい。
切れ長の目は、彫刻のように整っていて近寄りがたい印象を受ける。
全体的に見て、性別込みでオイラの真逆な感じ。
「リータ、姫!何もたもたしてるの!」
ジャングルへの入り口で、やはり母親よろしくマギーが叫ぶ。
「ごめんなさいっ!えと、ひ」
「……とっとと行けよ」
眉間に皺を寄せオイラの言葉を遮り、吐き捨てるように一言。
ああ、ウザいって意味ですかそれ……分かったよ。
オイラは大きなバックパックを背負い、仕方なくマギーたちの後を追い始めた。こっそり振り返ると、『姫』は、オイラから距離を取りつつ、ゆっくりと後をついてきた。
オイラは、『姫』に嫌われてる。
いや、嫌われてしまった、というのが正しい。
いやいや、『姫』だけかというところも怪しい。
勿論、それは自業自得ってやつで。
なにせオイラは、彼を、彼等を――・・・
仲間の顔を、忘れてしまったのだから。
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