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「くそっ…ここまでか…」
男は緊迫した様子で言った。
数十分前までは華やかであったろう、城の奥の王の間も、今や玉座も兵士たちも倒れ、窓は割れ、綺麗な床も瓦礫で埋もれるなど、原型も留めずに廃墟と化していた。
そして今男の周りは既に精鋭の敵に包囲され、もはや絶体絶命の状態。
「こいつぁ負け戦だ。ティア…オレが犠牲になる…お前はシェイドを連れてバレンやシークと逃げろ…」
「馬鹿じゃないのアンタ?この私が逃げるとでも?アンタが死ぬなら私も死ぬわ。あの時…運命を共にするって誓ったでしょ」
「そんなこと言ってる場合じゃ…」
「いいから。それよりこの子を…」
隣にいたティアと呼ばれた女性が、その腕に抱いている赤ん坊に目を落としながら言った。
「シェイドを逃がさなきゃ。…奴らの手の届かない場所へ」
「まさか…王妃、あれをやるんじゃ!?」
側にいた味方の従者は、王妃ティアの発言に驚愕の表情を見せた。
「シーク…そのまさかよ。もう私たちには時間がない。しょうがないの」
「…それ以外に…方法はない、か」
「えぇ、ないわ。腹括んなさい、レイ」
「まさかお前に言われるとは…ふつう逆じゃね?これじゃ俺がかっこ悪いみたいじゃねぇか…ティア」
「少し黙って」
「…はい」
この緊迫した状況でそんな会話が出来るとは、この二人も相当なものだ…
だが、状況は圧倒的不利。
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