幸福

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この軍人の演説が、私をたてたように聞こえたかい? 違うな。 父を捕まえ損ねたことで、民衆の信用を欠くことを恐れた国の下手な演説だ。 私をたてたように見せた責任逃れだよ。 軍人は続ける。 「そしてこの娘は、自らの手で償いをすると!!!!」 ……な ん だ っ て ? 民衆の歓声が耳に入らなくなった。 なんだ、なんだ、なんだ 自ら? 国が私を裁くのではないのか? 理解が追いつかない。 この男は、何を言っているんだ? 混乱している私に、軍人から何かが手渡された。 そして軍人はニヤリと笑って 「汚名返上」 そう呟いて、死刑台を降りた。 ゆっくりと視線を落として自分の手を見た。 冷たい、黒い、鉄の塊が握られていた。 小さな私の手でも扱いやすい、一丁の、ハンドガンだった。 "汚名返上" 意味が分かったよ。 国も汚いことをする。 弾は一発。 失敗は許されない。 自分で死ねってことか。 たった一発だ。 適当にどこかに撃てば、それで終わる。 もしくは軍人に向かって、発砲してやってもいい。 だけど、この状況でそれは難しい。 歩くのもやっとな、私の体力 死刑台の周りには5名ほどの軍人 そして死刑台を取り囲む多くの民衆 逃げられない 軍人に発砲すれば弾丸の雨を浴びる 適当に発砲すれば、民衆に何をされるか分かったもんじゃない。 なによりこの歓声… 応えてやらないわけには、いかないだろ。 冷たい黒い塊を、頭にあてがった。  
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