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民衆が湧く。
耳障りな歓声が、私を包む。
私はゆっくりと撃鉄を下ろし、引き金に指をかける。
そして引き金にかかる指に、恐る恐る力を入れる。
目を瞑って、深呼吸をした。
………………?
民衆の歓声が変わった。
どこかで起こった異常に対するざわめきに変わっている。
私は瞑った目を開けて、民衆を見た。
人の海を掻き分けて、誰かが前に出てこようとしている。
その後ろを、別の誰かが追いかけていく。
なんだ?あいつは。
私の舞台を乱して、何をしようと言うんだ?
長い間暗がりに居た私の目は視力が低下しているのか、よく見えない。
男性であることは分かるのだけど。
民衆が、ざわめきながらも道を開ける。
男性の後ろを追う人間は、どうやら彼を止めようとしているらしい。
彼が死刑台に近づくにつれて、私の周りに居る軍人の顔が強張ってくる。
銃を構えだした者もいる。
私は一先ず、銃を下ろし、彼の行く末を見守ってみることにした。
そして彼は、民衆の一番前へやってきた。
死刑台に近づこうとしたが、彼の後を追っていた友人らしき男性に抑えられ、軍人達に銃を向けられ、止まった。
息を切らしているのか、なかなか顔を上げないし言葉も発しない。
気でも狂ったのだろうか、それとも父に恨みを持つ者だろうか。
そして男性は、顔を上げた。
一瞬、銃を落としてしまうところだった。
知らないはずはない。
見覚えのある顔。
ずっとずっと、一緒だったんだ。
忘れるわけがない。
「零っ!!!!」
懐かしい、兄の声が、私の名を呼んだ。
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