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代わりになる?
あぁ、この人はバカだ。
例え兄が代わりになって殺されても、すぐ後に私も殺される。
なら私は、兄を喪うわけにはいかない。
チラと振り返れば、ニヤニヤした上官らしい男と目が合う。
どうするのか…とでも言うような顔でこちらを見ている。
どうするもこうするも…選択肢は2つに1つ。
しかもどちらにしても私は死ぬ。
どうしたって、私が選ぶ方を解っているくせに。
国は汚いな。
全てが滑稽。
母もいない、弟もいない、例え逃げられても兄さえもいないのならば、いつかは死ぬさ。
視線を兄に戻す。
相変わらず意思の強い瞳でこちらを見ている。
後ろで押さえつけている友人が手を放したら今にも死刑台に登ってきそうな勢いだ。
私は精一杯兄を睨み付けて、死刑台に掛かっている兄の手を蹴り飛ばした。
兄はえらく驚いてる様子だった。
それもそうだ。
お兄ちゃん子の私が、兄にそんな態度をとるなんて今までなかったのだから。
それに男が上に立つ時代だ。
例え身内でも、男は敬うべき存在。
逆らえるものか。
撃鉄を引きっぱなしの拳銃の銃口を再び頭部に添える。
兄が目を見開き、恐怖に怯えた表情を見せた。
「やめろ!れ「にぃ…さ…ま」
あぁよかった。
まだ、声は、出る。
「ご…めん…ね、に…さま」
声帯の震えが気持ち悪い。
でも、脳は喋れと促す。
兄様、私は兄様のことを尊敬しておりました。
兄様…
「にいさ…ま」
涙が、溢れてきた。
どうして、いまさら人間らしい感情が戻ってくるの。
喜びも、悲しみも、恐怖も、いっぺんに戻ってきた。
兄様…
「ぁ…りが……と」
激しい発砲音の後
深紅の液体が青い空を舞い
背中の鈍い痛みの後
愛しい人の声が耳に届いた
―幸福を夢見た幼子の最期―
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