幸福

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不意に苛立ちを覚えて、足下の死骸を踏み潰し、蹴り飛ばした。 乾いたものが潰れる音がして、薄羽や千切れた手足が宙を舞った。 宙を舞うそれが地面に全て落ちきるまで、じっと見ていた。 全て落ちきると、私はまた固いベッドに座り直した。 あいつら…私より遥かに体は小さいし、壁を這うことも、飛ぶことも出きるはずである。 なのにわざわざ私の目の前で死にやがって…。 死を待つだけのものに、死を見せてどうなる? まぁ…奴らの小さすぎる脳みそでは、そんなことを考えることは出来ないのだろうけど。 全部、私の八つ当たりだから。 怒ることにも疲れて上を向いた。 相変わらず、危うい光の放たれる裸電球がぶら下がる冷たい天井があるだけだ。 目を瞑れば、何も見えない。 瞼の裏には、私の理想が広がっている。 夢の中の私は自由で、小さな弟と一緒に遊んで、途中で兄も入ってきて一緒に遊んで、母は食事を作りながらこちらを見て微笑んでいる。 お金はあまりないけれど、幸せな空間。 父の姿は…夢の中にも出てこない。 あの人はまだ…生きているのだろうか。 夢が終盤に差し掛かると、急に扉が開いて、数人の兵隊たちが入ってくる。 弟は泣き出し、兄はどうすることもできず立ち尽くし、母は俯いて私を差しだしす。 私は泣き叫び、家族の名を呼び、もがいた。 泣いている家族の姿を見ながら、最後は兵隊に扉を閉められ、引きずられていく。 いつもいつも…この夢を繰り返し、自分の悲鳴で目を覚ます。 夢の中でさえ、私の幸福は許されなかった。 もう死を恐れる感情すらわからないけれど、体は正直なんだろう。 夢から覚めると、体が震え、息が上がり、動悸が速くなっている。 でも涙は相変わらず流れない。 流し方など、当に忘れてしまったのか…それとも既に枯れてしまったのか…。 目を開けるたびの絶望は、希望に少し似ていた気がする…。  
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