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考えたくはなかった。
認めたくはなかった。
だが、志郎は解った。
自分は、ひとりぼっちになってしまったのだと。
一人だけ取り残されて、よく解る。
嫌っていた学校が、家が、世間が、すべて志郎を守ってくれていたことに。
守るのが嫌だったルールに、守られていたということに。
志郎は震える体を押さえ付けるように、両手を強く握りしめた。
右手に持った人形が、カタリと鳴った。
(……何か食べたいなぁ)
人形は、何もしゃべらない
(……友達に会いたいなぁ)
人形は、何もしゃべらない。
(……帰りたいなぁ)
ポタリと涙を零した志郎を見て、人形は、にこりと笑った。
そして、志郎は立ちくらみとともに気を失った。
(……う、あれ?)
目を覚ました志郎が感じたのは、違和感。
目の前の風景が気を失う前と変わっていたのだ。
…そう、目の前にあるのはまるで、自分の家の玄関のようではないか?
夢だったのか、と志郎は思う。
だが右手には、笑い顔の木造りの人形があった。
家の中からは、温かい夕食の匂いがしてくる。
夢だったのかは分からない、分からないが今は家に帰ってこれたのだ。
だから志郎は、一言。
「ただいま」
~終~
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