8人が本棚に入れています
本棚に追加
(………?)
亀って、秋が産卵期だったか?
なんてどうでもいいことを考えながら亀に近付いていく志郎。
どうやら亀は何かの拍子にひっくり返ってしまったらしく、じたばたと手足を動かしていた。
(まるで、浦島太郎だな)
胸の中で思い、その考えが意外にも的を射ていることに少し笑ってしまう。
物語の主人公は浦島太郎、そして自分は浦島志郎。
ならば亀を助ければ竜宮城に連れて行ってくれるとでも言うのか。
ちょっとだけ考えた後、志郎は亀の甲羅に手をかけた。
いつもは見て見ぬふりを決め込むが、助けたらどうなるか、が少し気になったのだ。
亀は重かったが、勢いをつけてドスンとひっくり返した。
何故かは分からないが、亀自身も力を入れていたような気がした。
(……………)
何か起きないか、と亀をじっと見つめる。
だが亀は何が起きたかをゆっくりと把握した後、のっそりと海に向かって進み始めた。
(…そりゃ、お伽話みたいにはいかないよな)
志郎は少し落胆したものの、半ば本気で何か起こるかもしれないと考えていた自分に対して嘲りの笑みを浮かべた。
.
最初のコメントを投稿しよう!