浦島志郎

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海にゆっくり入っていく亀をぼうっと見つめながら、志郎はポケットをまさぐってポケットに入っている携帯電話を取り出す。 時間はまだ早い、このまま家に帰る気にはなれなかった。 (………ん?) ふと、海に入っていく亀を見ると、振り返りこちらを見ていた。 何となく、亀が志郎に頭を下げたような気がした。 (…まさか) ふん、と鼻で笑って亀から目を離す。 そのまま歩き、さっきまで自分が座っていた場所へと戻る。 さっさと座って携帯をいじる。 メールが一件、内容はアドレスを変えたとだけ。 (つまらない) 胸の中で毒づき、変わったアドレスを登録しないまま携帯電話を閉じた。 すっと、目線を上げた時だった。 (………あれ?) 砂浜に、さっきの亀が戻ってきていた。 体が濡れているので海には潜ったのだろうが、何故かまた上がってきていた。 すると、亀が志郎に向かって首を振った。 まるで、志郎を呼んでいるような動きだった。 (……まさか、な) そう思っても、亀は志郎を見つめたまま首を振り続けた。 .
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