浦島志郎

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水の中に亀に乗って入る。 息はできるのか、と思ったが水は亀を避けるように流れていた。 亀はぐんぐんと潜っていく。 まるで球体のようになった水を避けた周りを、魚はすっとよけて泳いでいる。 (あ、そういえば) と、志郎は今更ながら思い出した。 竜宮城に行ってしまったら自分のいた世界の時間が驚くほど早くなることに。 (…ま、いいか) だが、志郎はそう思った。 別に今いる世界に未練などなかった。 今大切なのはこの不思議な時間。 退屈しないことが志郎にとって最優先だった。 「サア、ミエタ」 と、亀が高い声で言った。 その声に志郎が前を見ると、たしかに何かあるのが見えた。 大きな壁。いや、大きな扉だった。 塀のようにぐるりと壁があり、それにドームのように屋根がついていた。 亀がその扉の前で止まる。 と、黒板を爪で引っかいた時のような、不快な音が辺りに響く。 耳を塞いだ志郎は、それが扉が開く音だと気付いた。 そして周りにいた魚たちもその音を聞いて、ばさばさと逃げていった。 .
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