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それからの月日は早かった。
毎日毎日、退屈なんてしない日々が続く。
志郎は楽しんでいた。
最初の内は。
でも、一週間も経ったある日。
志郎は飽きてしまっていた。
すべてに。
退屈だと。
そう思った。
(…もういいや)
乙姫に、帰りたいと伝えた。
別に自分のいた世界に戻りたかった訳じゃなく、ここにも飽きたから出ていきたいといったものだった。
乙姫は志郎の言葉に少しだけ哀しそうに顔を伏せた後、待っていて下さいとどこかへ行った。
(なんだろうか?)
まさか秘密を知った者は逃がさないとでも言うつもりか。
それは困る。退屈していても自由は大事だ。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、乙姫が戻ってきた。
「どうぞ…これを」
と、乙姫は小さな人形を差し出してきた。
間接もちゃんとある、木造りの人形。
「お土産です。どうか、後悔なさらない選択を」
乙姫は哀しそうな瞳のまま笑って、そう言った。
志郎はその意味深な言葉に曖昧に頷いた後、亀に乗った。
(お土産は玉手箱じゃないのか)
人形をカタカタと弄びながら、志郎は思った。
乙姫の哀しそうな顔が、何故か頭から消えなかった。
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