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12月24日(日)
午後6時、私は肩を落として行きつけのパチンコ店をあとにした。財布に紙幣は残っておらず、少しばかりの小銭が残っているのみ。
「52円、か…酒代にもなりゃしない。」
うつむきかげんで道を歩いていると、署名を募る団体に声をかけられた。
「地震で被害を受けた地域への緊急援助を求める署名にご協力ください。」
団体員は目の前に名簿とボールペンを差し出してきた。
「緊急援助が必要なのは、俺の方だよ。」
ぶっきらぼうに言ってのけ、私はさっさと団体の前を通り過ぎる。
冷たい風が吹き抜けるクリスマス・イヴの駅前広場は、夕日に染まって幻想的な雰囲気を醸し出していた。
木や街灯に巻かれた電飾は色とりどりに輝き、通り過ぎるカップルや家族連れがイルミネーションを指差しては顔をほころばせる。
そんな光景の中で、私は一人浮いている。いや、沈んでいるといったほうが正しいだろう。
居心地が悪くなった私は、駅前の広場から人気の少ない通りへと移動した。暗くて狭いこちらの道のほうが、私にはお似合いなのだ。
クリスマスなんて、落ちこぼれの私には関係のないこと。夢も、希望も、奇跡もない。事実、パチンコで大損したんだからな。
「そんなことはないですよ。クリスマスの奇跡は誰にでも訪れます。」
どこからともなく聞こえてきたその声に、私は周囲を見回した。
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