ついてない少年

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「じゃあ昨日食べてたバナナの皮。どこに捨てた?」 「……」 「……」 「……」 「……」 「すんませんしたー!」 「ふざけなんなジジィ!!」 と、このように俺の朝は"ついてない"事から始まる。 なんだ、そんなことかと思う人もいるかもしれない。 だが、こんなのはまだ序の口だ。 たかがこの程度の不運で挫けるほど、俺の魂は柔じゃない。 「親父、パン焼いといてくれた?」 新しく新調した学生服に着替え、紅茶を啜りながら食卓に着く。 親父はふりふりのついたピンク色のエプロンをつけ、目玉焼きを焼いている途中だった。 「おお、もう焼きあがってる……ぞ……」 台所の方で親父の声が途切れた。 いや、もう予感はしてたんだが。 「親父、いつものことだ。きにするな」 と、俺は冷静に紅茶を啜る。 すると申し訳なさそうな顔をして、親父が俺の目の前に黒こげになったトーストが置かれた。 なんだこれ。八つ切りにされた炭かなんかか? はっ。毎度の事ながら泣けてくるぜ、っていうか涙が枯れて液体すら出てこないぜ。 「すまん。ちゃんと熱加減は調節したはずなんだが……」 一見、これらの不運は親父によってもたらされたものだと思うが、実は違う。 ウチはトースターで焼いているので、熱加減のネジを回しすぎることがない限り真っ黒になることはないのだ。 第一、この現象は誰がやっても同じ。 誰がやっても、なぜか俺のトーストだけが備長炭になるという迷惑極まりない手品が披露される。 元トーストを食べてもガン促進運動にしかならないので、俺の朝ご飯は紅茶とコーンフレークのみで終わらせる。 そして人面目覚まし時計が出ている某ニュース番組の占いを見ながら歯を磨く。 「さそり座……ははっ。見事に1位だぜ」 ラッキーアイテムは黒の手袋…か。 真っ黒のトーストならあるけどな。 歯を磨いた後、俺は玄関のドアを開けて登校する。 ドアを開けた瞬間、ザアッと強い風が吹き抜けてピンク色の花びらが波をうちながら飛んでいった。 春……か。 そして今日は高校の入学式。 そうだよな。折角の晴れ舞台なんだから気分をブルーにしてたらもったいないよな! よし! 前向き前向き! バシコーンッ! そんなことを思って大きく伸びをしていた瞬間、俺の顔面にバスケットボールが激突した。 「すんませんしたー」
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