第一章 溝(みぞ)

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 透は溜息を吐きながら、奏に聞こえない程度の 小声で独り言をブツブツと呟いていたが、 彼の言った事が聞こえた のか、睨みながら その事を尋ねる。 すると透は言葉に詰まる。そして透は心の中で、 こいつ地獄耳か! と 思いながら奏を見つつ 驚嘆していた。 「さあ、言いなさいよ。 誰が鬱陶しいの?」  奏の表情は笑顔へと 変わるが、その心の中は 怒り心頭であった事 だろう。 ひどい事を言われて怒らない人は居ない。 当然、逆に泣く人も居るのだが……。 「それは……」  透は「お前……」と今度は彼女に 絶対聞こえない位の小声で答えたが、 彼女の耳には、それでも透の言葉が 聞こえたのだろう。彼女の額に一筋のアオスジが 浮かび上がっていた。 「……ふふふ。……鬱陶しくって…… 悪かったわねー!!」
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