ー1ー

8/13
前へ
/28ページ
次へ
私たちの2メートル前位に来ると、ゆっくり止まって顔を上げた。勢い良く顔を左右に振って、手で拭う。ぽっちゃりおじさんの言う通りなら、この人がヨウスケ先生だ。目が細くてたれ目で、くしゃっとした笑顔。眉もたれ気味なせいか、ちょっと困っているような笑顔だ。それに印象的なのが大きな手。あんなに大きい手なら水がいっぱい掻けるんだろうなあ。でも水泳をやっているわりには、肩はがっちりしている風でもない。コーチばかりしているとあんまり泳ぎ込んだりはしないのかな。 「こんばんは。今日は体験の方がいらっしゃいます。浅倉祥子さんです。」 みんなが一斉こっちを向いた。 「……よろしくお願いします」 いきなり名前を呼ばないで欲しい。弱々しい声で答えてしまった自分にもうんざりする。やだなぁ、もう、大人しくしていよう。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加