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ボロボロのビルの一室に、少女の声が響いた。
無邪気だが、どこか気品があり、とても透き通った声。
紅の少女、ランステッドのものである。
「ローウ、朝だよ~」
彼女は、乱暴にドアをノックしている。
ドアの向こうには、布団にくるまったロウレニスがいるはずだ。
彼等の――正確に言えばロウレニスの――借りている部屋は、雑居ビルの一室で、居間の他に部屋が三つ付いている。
一つはロウレニスの、一つはランステッドの、もう一つは物置である。
ちなみにこの部屋、自宅兼事務所なので、居間はほとんど客間になってしまっている。
「ロ~ウゥ、早く起きなよ~」
現在、朝6:20、事務所の開所はおよそ三時間後で、時間はたっぷりある。
急ぐ必要はないはずなのだが。
「全く、いっつも起きないんだから」
ランステッドはため息を吐くと、部屋の唯一の砦『鍵穴』に触れた。
彼女が眼を閉じ、軽く息を吐くと何処からか破裂音が鳴り、時間差で鍵の開く音が鳴った。
「よしっ」
小さくガッツポーズをとると、紅の少女はドアノブを捻り、静かにロウレニスの部屋へと侵入した。
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