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夜の静寂、周りの音は一切無い。
辛うじて聞こえるのは、風の音と夜行性動物の不気味な泣き声。
本来ならばそれしか聞こえないはずであるが、今は状況が違うようで、少女の怒声が響いた……。
「ちょっとロウ!!話が違うんだけど!?」
少女の声は、街から離れた林の中の廃墟から聞こえたようだ。
木の壁に囲まれた廃墟は、壁にヒビが入ったり、シミだらけだったりと、人が住んでいない雰囲気を建物全体で醸し出していた。
果たして、そんな場所に少女はいるのか?
答えは、Yes。
驚いたことに、少女だけでなく、もう一人廃墟の中にいた。
気弱な印象を受ける中性的な雰囲気がある青年だ。
闇に溶ける漆黒のスーツを着込んだ様は、まるで葬式に参加する者のよう。
年はやっと二十歳を過ぎたといった感じで、まだ幼さが残っていた。
苦笑を浮かべた彼は、綺麗な茶色の髪を片手で掻きながら言う。
「話違うって僕に言われても、緊急事態なんだよ?」
彼の言葉を向けられたのは、闇の中でもよく目立つ紅い髪と、紅い瞳を持つ美しい少女だ。
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