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罅が入るくらい脆くなっているとはいえ、壁をぶち破れる犬などいないし、大きさが半端ではない。
大型犬の二倍は超えた体長をしているのだ。
熊とは言うかもしれないが、犬とはお世辞でも言えない。
たとえ、それが犬の形をしていてもである。
犬のような『何か』は、犬歯を剥き出しに、青年達を威嚇している。
こちらの出方を見ているのか、殺気を放っているが、攻めてくる気配は無い。
そんな『犬』の一瞬の隙を見て、青年は少女を抱えて逃走を開始した。
あまり運動神経に自信はない彼だが、逃げなければ殺されるのを待つだけだ。
当然の判断である。
しかし、簡単に逃がす『犬』ではなく、大きな足で地を蹴り追ってくる。
人が獣の運動能力に勝てるはずなく、その差は一瞬で零に詰められてしまう。
青年との距離を詰めた獣は、自慢の牙で獲物を引き裂かんと、大きな口を開ける。
青年は眼を閉じ、祈った。
誰に?と言うと、神ではなく腕の中の少女に、である。
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