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「“事務所”に帰ったら、好きなもの作ってよね」
満面の笑み、可愛いだけでなく、少し子悪魔的な要素を含んだそんな笑みを、彼女は浮かべている。
「ハイハイ」
苦笑を浮かべながら、青年は返す。
「よ~し、一仕事しますか」
と彼女が背伸びするのと、獣が立ち上がって再び襲い掛かってくるのは、ほぼ同時であった。
唾液を巻き散らしながら迫る獣、その標的は青年と獣の間に立つ少女である。
少女の死を予感させる状況、鋭い牙に少女の柔肌など、一瞬で引き裂かれるであろう。
だがすぐ目の前に死が迫っているにも関わらず、少女は平然としていた。
その表情には、侮蔑、同情の色が浮かんでいる。
「誰の使い魔かは知らないけどさ」
言葉の途中で、獣が少女に跳び掛かった。
彼女も言葉を止め、死と相対する。
瞬間、肉が裂ける音と、血が噴き出る噴出音。
「……相手が悪かったね」
なんと裂かれたのは、少女でなく獣の方だった。
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