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「ヘック…ショイッ!」
豪快なクシャミをかますと暖房の温度を上げていた男が慌てて近寄って来た。
「ごめんなさいっ!大丈夫ですか?」
ここは小さな喫茶店。
今は客はいない。
カウンター席に座り、借りたトレーナーとズボンをはき毛布に包まりながら、ホットミルクを飲んでいた。
「ずっ…大丈夫です…」
鼻を啜りながら答えた。
この男は堀田 八住【ホッタ ヤスミ】と言ってこの喫茶店で住み込みで働いているらしい。
歳は23、黒に近い茶色の髪はサラサラで少し長めの前髪が忙しく揺れている。
少年ぽい優しい顔立ちはとても23歳の青年には見えない。
彼をボーと見ていると窓の外の景色に目が移った。
窓から眺める景色は、道路を挟んで向こう側が海だ。
少し高い位置に喫茶店があるので、ちょうど私が立っていた辺りが全部見える。
「ここから見えた?私のこと…」
窓の外を見ながら質問すると八住は申し訳なさそうに、ポツリポツリと語る。
「はい…窓際の…テーブルを片付けていたら、どんどん海に近づいて行く片岡さんに気付きました」
八住はカウンターの中に入ると二杯目のホットミルクを出してくれた。
「この時期、たまにいるんです死んでしまおっかなぁって思う人が…ほら雰囲気が暗いでしょ?のまれちゃうんですよね…だから、片岡さんもそうなのかなと思って…本っ当に、すみませんでしたっ!」
深々と頭を下げている。
これで何度目の謝罪だろうか。
彼には失礼だが
少し、可笑しくなってきた。
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