血ノ雨ヲ降ラス者

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「お仕事ご苦労様です。お侍様」 周りをせかせかと動く女達よりも少し立派な着物を着ている女性が正座をし、紅く染まった黒髪の男に向かって挨拶をする 「湯の用意は出来ております。こちらへ」 女将はできるだけ人目につかない道を選び、男を湯へと導いていく するとそこに、黒髪の男に馴れ馴れしく近づく輩がいた 「あれ?いつもは一切返り血浴びない坊が今日はエラく赤いじゃないか。“艶月”にでも魅入られたかい?」 「…我門(ガモン)か…何のようだ」 明らかに黒髪の男は我門を煙たがっている 直ぐにでも体にこびりついた紅を洗い流したいのに大抵湯に行く時にコイツは出てきて何かとちょっかいを出してくる 「まぁまぁそう煙たがるなって…ほら今回の報酬。たんまりでてるぞ」 そう言って我門は黒髪の男の手のひらにジャラジャラと音のなる袋を乗せた 男はそれを懐にしまい、湯の方へと歩いていった 「アイツももう少し愛想が良けりゃあモテるだろうになぁ」 我門は誰に話すでもなく呟いた 黒髪の男は衣服を脱ぎ、刀を持って湯場へと進む 露天風呂となっているこの湯からは紅に染まる月“艶月”がよく見える 湯気に包まれながら、黒髪の男はしゃがみこみ近くの岩に刀を置いて、血のついた体を洗い流していく 「艶月に魅入られたか…」 黒髪の男は湯を覗き込み、水面にうつる艶月と自分の顔を視る そこにはまるで三つの艶月があるかのように見えた 「フッ…ただ俺は血の暖かさに触れたかっただけだ…」 黒髪の男はチャプと音を立てながら湯に体を沈めていく 少し熱めのお湯が心地いい 男は不意に空を仰ぎ、艶月を眺める その月を見て血を吸って汚れた月と読み解く者もいれば、人々を惑わす月と読み解く者もいる 様々な解釈があるが、何か災いの前触れではないかと思う者が大半をしめている 「この月を見るのも、久しぶりだな…」 男は懐かしむように見つめていた
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