誰かが言っていた

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「ホントデース!ワタシハ食べナーイ!」 気色ばんでトミーが言った。 「アーミーサント、ビトサンノ、カントリーデハ食べテルー!」 「わかった、わかった。 あんまり興奮すんなよ。」 言葉が通じたのかはわからないが、トミーは話すのをやめた。 食卓を囲んでいるのは、僕をいれて四人。他の三人は、F国から日本に出稼ぎに来ている研修生。 夕飯時の話題にするのもどうかと思うが、「犬」を食うか食わないか…という話。 それと言うのも、僕等四人は会社の寮で共同生活しているのだが、ここにいる一匹の犬の話から、こうなってしまったのだ。 僕自身、犬を嫌いではなかったが、ここに住むようになって少し嫌いになっていた。 ここの犬、「チコ」が苦手だった。 「あの犬、クンクンうるさいから、お前たち喰ってしまえ。」 冗談で言ったつもりだったが、本気にとったためこの騒ぎだ。 以前、東南アジア方面では動物性蛋白質を摂取するために、犬を食す…との報道を聞いた事があった。 国が変われば文化も変わる。食文化もそうだろう。 日本だって戦後の大変な時期に、赤犬を食べたと誰かが言っていた。驚く話ではなかった。 「アーミーやビトの住んでた所では、食べるの?」 「ミンナジャナイ、スコシノヒトタチ食べル。」 ビトの言葉をアーミーが続けた。 「デモ、『チコ』ハ食べレナイ犬。」 「ふ~ん、種類が違うんだ。」 アーミーは食事の手を止めて言った。 「チコハ、社長サンの犬デスカラ…」 ……ちょっとドキッっとした。社長の犬じゃなかったら食うのか? 「鏡サン、テイスティング、ドーゾ」 トミーが大皿を指指した。 そこには、こんもりと鳥の足。 気にはなっていたが、とっても食べられない。本当の足なのだ。三本の前足と後ろに飛び出た一本。無造作に盛りつけられたそれを、彼等はしゃぶっていた。 「ノーサンキューだ、トミー。」 僕は、飲みかけのバーボンを一気に飲み干し、部屋へはいった。 ペチャペチャと、鳥の足をしゃぶる音だけが聞こえていた。
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