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次の日、社長もチコを見て驚いた。
明るい所で見るチコは、さらに無惨な状態だった。
顔どころではない、体中毛が抜け、血が滲み、腫れ上がっていた。
昨日の事を報告したが、餌の事だけは伏せておいた。やっても食べないと言っておいた。
チコは、犬小屋の奥でまだ足を泳がせていたが、
すでに音をたてる事すらできなかった。
小さく震えながら…ゆっくりと…命を削っていた…
「鏡ちゃんも気づかなかったの?」
社長に聞かれても頷くだけしか出来ない。
本当に気づいてなかったのか…?
気づかないフリをしていたのか…?
僕は、自分の中の闇を感じていた…
………………
社長が病院に連れて行くと言うので、僕等は、ひとまず安心して仕事へと向かった。都内まで行くので帰りは遅くなりそうだった。
僕等の会社は、東京の西のはずれH市にある。帰りは二時間コースだろう。その頃には、チコの様子も少しは良くなっているだろうと思っていた。
………………
仕事を終え会社に着いたのが夜の九時。会社には誰もいなかった。いつもの事だ。他の人達は、それぞれの現場の段取りをして帰ったのだろう。
「鏡サン、チョット…」
トミーが事務所に顔を出した。今日は別の現場だったから、早く帰っていたようだ。
「何?」
手招きされるまま外に出る。トミーは何も言わずチコの小屋の方へ…
腹の奥がザワザワとした…
「…メイビー、デッド…タブン、シンダイデス…」
「…死んでる…?だって病院、ホスピタル…」
トミーは首を横に振った。
「社長サン、ベリービジー、ホスピタルイケマセンデシタデス。」
アーミーとビトが小屋を覗き込んだ…
「クライデスカラ…」
チコは小屋の一番奥にいるらしい。
「死んでる?」
僕も二人の後ろから覗き込んだ。
少し臭う…いつ頃死んだのかわからないが、すでに死臭がしている。
「……駄目だったか…」
どうしようか…と思っていた時、突然携帯が鳴った。みんな一瞬ギクリとした。
「…社長からだ、おどかすんじゃねぇよったく…もしもし…!」
「あぁ鏡ちゃん?悪いなぁ、忙しくてさ、今山梨にいるんだよ。明日は連れていくからさ…」
「もう死んだよ!病院行くって言うから安心してたのにっ!どうすんだよ!」
社長に向かって吐く言葉ではなかった…
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