餓死?それとも…

2/3
前へ
/44ページ
次へ
次の日、社長もチコを見て驚いた。 明るい所で見るチコは、さらに無惨な状態だった。 顔どころではない、体中毛が抜け、血が滲み、腫れ上がっていた。 昨日の事を報告したが、餌の事だけは伏せておいた。やっても食べないと言っておいた。 チコは、犬小屋の奥でまだ足を泳がせていたが、 すでに音をたてる事すらできなかった。 小さく震えながら…ゆっくりと…命を削っていた… 「鏡ちゃんも気づかなかったの?」 社長に聞かれても頷くだけしか出来ない。 本当に気づいてなかったのか…? 気づかないフリをしていたのか…? 僕は、自分の中の闇を感じていた… ……………… 社長が病院に連れて行くと言うので、僕等は、ひとまず安心して仕事へと向かった。都内まで行くので帰りは遅くなりそうだった。 僕等の会社は、東京の西のはずれH市にある。帰りは二時間コースだろう。その頃には、チコの様子も少しは良くなっているだろうと思っていた。 ……………… 仕事を終え会社に着いたのが夜の九時。会社には誰もいなかった。いつもの事だ。他の人達は、それぞれの現場の段取りをして帰ったのだろう。 「鏡サン、チョット…」 トミーが事務所に顔を出した。今日は別の現場だったから、早く帰っていたようだ。 「何?」 手招きされるまま外に出る。トミーは何も言わずチコの小屋の方へ… 腹の奥がザワザワとした… 「…メイビー、デッド…タブン、シンダイデス…」 「…死んでる…?だって病院、ホスピタル…」 トミーは首を横に振った。 「社長サン、ベリービジー、ホスピタルイケマセンデシタデス。」 アーミーとビトが小屋を覗き込んだ… 「クライデスカラ…」 チコは小屋の一番奥にいるらしい。 「死んでる?」 僕も二人の後ろから覗き込んだ。 少し臭う…いつ頃死んだのかわからないが、すでに死臭がしている。 「……駄目だったか…」 どうしようか…と思っていた時、突然携帯が鳴った。みんな一瞬ギクリとした。 「…社長からだ、おどかすんじゃねぇよったく…もしもし…!」 「あぁ鏡ちゃん?悪いなぁ、忙しくてさ、今山梨にいるんだよ。明日は連れていくからさ…」 「もう死んだよ!病院行くって言うから安心してたのにっ!どうすんだよ!」 社長に向かって吐く言葉ではなかった…
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加