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この部屋には時計があり、毎秒ごとに長細い針のプラスチック音が聞こえてきた。
「えっと、この子は君の?」
「妹だ。今年で小学5年になる」
彼女は眠る少女の頭を撫でながら、小さく答えた。
「あの、風見さん?」
「怜でいい。」
彼女の名前を確かめるように呼んだ僕に、彼女は微笑みながら返した。
「なんで僕を、ここに?」
「そうだなぁ。まずは今朝のことでちゃんと謝りたかったのでな。ぶつかったのは私が悪かったのに、つい君を悪く言ってしまった。」
あの時のことか。確かにあのときの風見は、今の雰囲気と違っていた。
「自転車で通ってるのは、家が遠いとかの理由で?」
すると、風見は首を振り答えた。
「この子に早く会いたいからだ。1分でも、1秒でも」
風見の表情はどこか切なく、そして悲しかった。
「朝のことなら、俺のほうこそごめん。……その」
「それは別にいいと言った。気にするな」
風見は立ち上がり、花瓶の水を替えに行く。戻ってきた彼女に僕は問いた。
「この子も、起きないの?」
「いや、今はたまたま寝ているだけだ。……この子も、と言うことはお前」
風見の問いに僕は応えられず、下を向いてしまった。
「いや、失礼。許してくれ」
「別に、謝ることないよ」
彼女は花瓶をもとの場所に置くと、その入れられた白い百合を見つめていた。
窓から入る夕日の光が部屋をオレンジ色に染めていた。
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