その雫を

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「2年前、この町の近くで土砂崩れにバスが巻き込まれた事故を知っているか?」 再び椅子に腰かけた風見は、突然話し出した。勿論知っている。今日の昼にもその話をした。 「知ってるけど、」 「そのバスには私の父親と妹が乗っていたんだ。妹はその時の事故で片足をなくし、父は帰らぬ人となった」 あの事故で亡くなっていうのは風見の父親だったのか。彼女は僕と似ている気がした。 しかし、そこからある疑問が出てくる。 「でも、あの事故は2年前のこと。なんで妹さんはまだ入院してるの?」 僕の問いに風見は少し表情を変えた。 「この子は元々喘息を患っていてな、たまたま出た外出許可に父親が妹を外に連れ出したんだ。その帰り……事故にあった」 彼女は優しく妹の手を握り、目をつむった。風見の目から涙は流れていなかったが、つむる前の瞳には確かに光るものが見えた。 すると、眠っていた少女がゆっくりと目を開け、小さく口を開いた。 「あ、お姉ちゃん。おはよ」 「おはよう蓮、よく眠れた?」 「うん、その人は?」 少女は起き上がると、僕のほうをチラッと見て風見に尋ねた。 「私の友達だ。名前は……」 「本田、本田鷹彦」 そういえば名前を言ってなかったっけ。聞かれないものだから忘れていた。 「たっ君かぁ。私は蓮、風見蓮。」 「よろしくね蓮ちゃん」 少女はニッコリと笑い、首を少しかしげた。サラサラとした髪が彼女自身の肩に乗る。 少女の微笑みは少し心が暖まるような不思議な感じがした。
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