その雫を

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 窓から入る光はだんだんと暗くなっていき、風見は個室の電気をつけた。 「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。それじゃあ蓮ちゃん、お大事に」 「たっ君ありがと、バイバイ」 少女に手を振り返した僕は、そのままその個室から出ていった。部屋を出て立ち去ろうとしたときだった。ドアが再び開き、風見が出てきて僕を呼び止めた。 「本田、」 病院内で風見の声が響く。彼女はドアを閉め、僕に歩みよって来た。 「ここにはよく来るのだろう? もしよかったら、その時には妹のところにも来てくれないか。話相手になってほしい……」 僕に断る理由はない。頷くと風見は小さく微笑み、また個室のドアを開いた。 「じゃあまた来てくれ、本田」 「じゃあね、風見さん」 「怜でいいと言った。」 最後にその言葉だけを返し、彼女は個室へと入って行った。 僕はエレベーターを使い下の階に降り、出入口の自動ドアのところへ向かった。 その時、黒い影が僕を横切った。僕が後ろを振り返るとそこには見覚えのある格好が見えた。 黒いスーツに、後ろ向きだったが黒いサングラスをかけているのも確かに見えた。 ムーである。手には数本の白い百合の花が、包装紙に包まれ握られていた。 向こうはこちらに気がつかず、そのまま歩いていく。声をかけようとしたが、その前にムーは病院の階段を一定リズムの音を響かせながら上っていった。 なぜここにムーが? 自分には関係ないかと、僕は特に考えもせずその場を立ち去った。 病院を出ると、まだ微かに夕日の光が空を赤く染めていた。
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