23人が本棚に入れています
本棚に追加
窓から入る光はだんだんと暗くなっていき、風見は個室の電気をつけた。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。それじゃあ蓮ちゃん、お大事に」
「たっ君ありがと、バイバイ」
少女に手を振り返した僕は、そのままその個室から出ていった。部屋を出て立ち去ろうとしたときだった。ドアが再び開き、風見が出てきて僕を呼び止めた。
「本田、」
病院内で風見の声が響く。彼女はドアを閉め、僕に歩みよって来た。
「ここにはよく来るのだろう? もしよかったら、その時には妹のところにも来てくれないか。話相手になってほしい……」
僕に断る理由はない。頷くと風見は小さく微笑み、また個室のドアを開いた。
「じゃあまた来てくれ、本田」
「じゃあね、風見さん」
「怜でいいと言った。」
最後にその言葉だけを返し、彼女は個室へと入って行った。
僕はエレベーターを使い下の階に降り、出入口の自動ドアのところへ向かった。
その時、黒い影が僕を横切った。僕が後ろを振り返るとそこには見覚えのある格好が見えた。
黒いスーツに、後ろ向きだったが黒いサングラスをかけているのも確かに見えた。
ムーである。手には数本の白い百合の花が、包装紙に包まれ握られていた。
向こうはこちらに気がつかず、そのまま歩いていく。声をかけようとしたが、その前にムーは病院の階段を一定リズムの音を響かせながら上っていった。
なぜここにムーが?
自分には関係ないかと、僕は特に考えもせずその場を立ち去った。
病院を出ると、まだ微かに夕日の光が空を赤く染めていた。
最初のコメントを投稿しよう!