口虚

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『嘘が真実になる病気』 そう告げられた。 瓢箪から駒病、嘘から出た真病、でもいい。 とにかく前例なく、空前絶後、私一人のための病気といってもよい病。 嘘が、現実になる。 言ったこと全て、結果として事実。 そういう病気。 「いいですね、今後、決して嘘はつかないで下さい。倫理から逸脱する、道理にそぐわない、そんな嘘をつけば間違いなく混乱や食い違いが生じます」 医師はそう忠告してきた。 確かにそうだ。 目の前に大金、と言えば富豪になれるが、経済界が狂う。 私が、明日地球は滅ぶ、と口にすれば明日地球は滅ぶ。 そこまで独裁するわけではないが、せめて、フルコースが目の前に、等とは言いたい。 「いいですね、再度忠告します。決して嘘をつかないで下さい。誓って下さい」 医師が険しい表情で言ってくる。 私は気持ちとは裏腹に、建前上申告する。 「はい。決して嘘はつきません」 嘘は現実になる。
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