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大家と名乗った老人が質問してきた。
「君は霊感強いか?幽霊信じるか?」
これから部屋を借りる者として、そんなことを探られれば警戒してしまう。
「まさか、出るんですか?」
大家は無言のまま進み、角を曲がる。
僕は立ちすくんでしまい、如実に語る背中を慌てて追う。
角を曲がって、また立ちすくんだ。
今曲がったばかりの大家がいなかった。
横には扉があって、ここが大家の部屋かなと憶測する。部屋に入ったのかなと。
突然、声をかけられた。
「君は…新入居者?」
見ると男性が立っていた。
「そうです」と頭を下げると、男性は「大家です」と頭を下げた。
続けてこう言った。
「君は幽霊とか信じる?」
「待って下さい、今、大家と名乗った方にもそう聞かれました」
騒乱する頭で、その問いをしぼりだす。
「見たか…。彼がその…」
幽霊なのだろう。
言葉無くして伝わるものがあった。
視線を感じて、振り返る。
そこには誰もいない。姿無くして、伝わるものもある。
正面に顔を戻す。
姿有して、さらに伝わるものだ。
さきの男性ではなく、大家と名乗った老人がいた。
「出た…」
無意識に口が動く。
その老人が恭しく話し出す。
「見たか。彼は前の大家だ。ただこのアパートに幽霊が出るということで入居者がいなくなった。いきづまり、自殺した」
すでにどちらが幽霊なのか判断がつかない。
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