14688人が本棚に入れています
本棚に追加
/277ページ
「来るときが来たって事か……
すぐ行くからちょっと待ってな」
どうやらあたしには感傷に浸る時間さえ、用意してもらえないらしい。
憎まれ口もそこそこにりぃは溜め息を一つ吐き、天井を見上げる。それから騒ぐテレビを消しのっそりベッドから立ち上がった。
少し名残惜しそうに自室のドアを閉め、広い廊下を歩きたどり着いたのはこの家でも一番大きな客間。
一度ゆっくり息づくと、その小さな拳を精一杯の力で握り締めた。
綺麗に伸ばされた爪が
手のひらに食い込んでも
なお力を入れたまま。
「親父、入んぞ」
彼女はノックもせず重厚な扉を、蹴入るようにして乱暴に入室した。
ソファーに向かい合うように座る2人の男が一斉に、その礼儀の欠けた少女に目を向けた。
「りぃ、お客様の前だぞ。言葉遣いを改めなさい。申し訳ありません如月様……」
ふくよかなりぃの父は一度も目を見ることなく、如何にも業務的な口振りで注意した。
最初のコメントを投稿しよう!