1(ソレは音も無く)

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如月と呼ばれた男は綺麗な顔をしていた。 真っ直ぐ通った鼻筋に、誰もが羨むであろう形のアーモンドアイ。そして、それらが無理なく均一に配置されている。そして少し中世を思わすのは、きっと少し色素の薄いグレーの瞳だからだろう。 チラリとりぃを一瞥して嫌みな顔をしたのが、気に喰わなかったらしい、彼女はしかめっ面で彼を迎えた。 「はいはい、クソ親父。だけどこんな風に育てたのはアンタだ」 いつも通りにりぃは全てを父親のせいにする。そうでもしなければ彼女は自分を保てないのだ。 誰かのせいにして 逃げていなければ。 「結構ですよ、薙さん。俺がきっちり躾ますから……」 そんなりぃを見て優雅にカップに淹れられたコーヒーを彼は啜ってみせた。 躾、だとぉ??! 悠然とコーヒーを啜る彼の口から、発せられた言葉を反芻し目を丸くした。 「とりあえず、俺は彼女が気に入りました。交渉成立です。所定の金額はこちらに」 彼が差し出した黒い大きなケースには、諭吉で埋め尽くされていた。 「……りぃ、もう解っていると思うが薙家のためにこの方と結婚をしなさい。」 全く申し訳ないと思ってもいない口ぶりでりぃに命令する。  
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