1(ソレは音も無く)

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その様子を横目で見て確認すると、彼はりぃの腕を掴んだ。 「行きましょう、りぃさん」 そう言って見向きもせず強引に引っ張った。 「じゃーな、クソ親父」 最後の最後まで父親には悪態つき、薙の名に終止符を打った。 りぃは最後まで強がった。 この家は苦痛だった。それでも、りぃにとっては唯一の自分の居場所だったのだ。 そして今日からはこの男と……、りぃはそう思って隣りにいるトキを見た。しかしその目はすぐに離された。 サヨナラ、あたしを愛してると笑った人。 生涯あたしが唯一"愛してる"と返した人。 薙の一番大きなドアを見つめながら、りぃは一筋だけ頬に涙を伝わせた。胸にある存在を浮かべながら……  
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