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DEATH NOTE
「私は、あなたがいてくれれば幸せです」
Lはワタリを見上げ、優しく微笑む。
ワタリはそれを甘受したかのように口元を綻ばせ、ゆっくりと頷く。
出会った頃と同じようにLを見つめるワタリの瞳は優しい色を浮かべている。
この世で唯一、心を許せる相手。
ワタリ。
父のように、母のように、ときに友のように自分を育ててくれた。
ずっと一緒だと思っていた。
けれど。
「…ワタ…リ……」
ぽつりとLは呟く。
目の前の信じがたい光景に、一瞬呼吸が止まる。
冷えた体。
もう二度と光を映す事のない瞳。
黒い布に包まれたワタリの変わり果てた姿を、Lは震える両手で静かに抱き締める。
―新世界の神になる―
自分の理想の世界の為に、デスノートという凶悪の殺人兵器を使い、平然と人を殺し、利用できるモノは全て利用し、手段を選ばない。
それがキラ…夜神 月という人間だった。
類を見ない、天才冷酷殺人犯。
この事件が、自分の最後になるかも知れない。
確率的に、Lはそう感じてはいた。
そして、99.9%の確率で夜神月がキラと判明した時、予感は的中した。
自分という小さな犠牲で事件が解決するならば、とデスノートに名前を書いた。
結果、事件は死神の手による夜神月の死という特異な終幕を迎えた。
だが、まさかワタリが先にデスノートの標的になるとは、予想外の出来事だった。
「………」
Lはワタリの肩まで掛けられていた黒い布を、ゆっくりと顔を覆うようにずらしていく。
どうしようもない孤独感と、灼けつくような激情が熱量を増して膨れ上がる。
私はどうして大切なもの一つ、守ることが出来ないのだろう。
奥歯を軋らせて漏らす心の呟きは、たとえようもなく苦かった。
手を伸ばすと、そこにワタリの体はあるのに。
心は遠く、手の届かない場所に逝ってしまった。
「ワタリ」
返事はない。
だが、届かないとわかっていても、その名を言わずにはいられない。
沈黙だけが流れる二人だけの部屋。
この空間だけが唯一の絶対領域であるかのように、Lはしばらくワタリの傍から離れることができなかった。
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