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「お歳暮配りと書類サイン…どっちも避けたい仕事だね」
はぁっと、白い息を吐きダイは素手を暖めるように口元に手を持ってくる。
「社長…またどうしてそんな軽装を…」
ラフな白シャツと黒パンツに上から赤いパーカーを着たのみの姿に、キルは更にため息をつく。
「僕は、暑がりだからいいの」
「いいから、これつけて下さい」
キルは自分がつけていたカシミアの白い手袋を素早く脱ぐと、ダイの手へ装着し、アキュアスキュータムのコートもダイの肩にかける。
暑がりという嘘を簡単に見抜いたキルは、触れたダイの手の冷たさに一瞬驚く。
「あったかい…けど、キルが寒くなるよ」
「私は、いいんです」
音もなく降る雪が、傘からはみ出した互いの肩に静かに落ちる。
行き交う人々も、降り積もる雪と共に次第に足早になっていく。
「スケジュールは鬼みたいだったけど…キルは優しいね」
キルの手の方が大きいせいか、指先が余っている手袋でダイはキルの両手をギュっと掴む。
「優しいとかじゃなくて…社長、いつから私を待っていたんですか」
「だから、ほんのちょっと前。仕事もちゃんと終わらせたし」
おそらく自分が駐車場に着く以前から、会社の玄関前で自分を待っていたんだろうとキルは予想する。
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