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個々の名を持つ分身達
[二十六夜月]
その色は確かに、夕陽とは異なる彩を見せていた。
青の薄墨を橙に染め変えながら、紅を滲ませて燃え上がる。
彼女は、遠い天空からその朝焼けを眺めていた。
夕陽より、朝陽からの方が、強い強い意志を感じる。
それは、生への執着だ。
世界のあらゆる生物の生きようとする欲望が、昇華して地平線際の太陽を揺らめかせる。
「にじゅうろくや」
「あら、のぞむ様、さく様」
名を呼ばれて彼女は、今は檸檬の色をした衣を翻して振り向いた。
彼女らの長である青年二人が、微笑んでいる。
「早いな、もうそなたの頃合か」
「あらのぞむ様、今更に何を仰いますの。私とて、すぐにさく様と交代しますわよ?」
「それもそうだ!いや、いまちやたちまちがまた逃げ出していやしないかとのぞむが言うのでな、見に来たのだ」
「お気遣い感謝致します。ですが大丈夫ですわ、最近は雲隠も自粛しているようで」
生真面目に言ったのぞむ、笑い声を上げたさくに彼女は微笑み頭を下げた。
纏った黒衣を風になびかせ、二人が並び立つ姿は常に変わらず凛として美しい。
「参ろうか、さく。にじゅうろくや、もう暫く頼んだよ」
「いまちやたちまちには釘を刺しておくからな」
「はい、ありがとうございます。みか達にもごきげんようとお伝え下さいませ」
常の夜色を纏った二人は、にじゅうろくやの前から消えた。
彼女は、もう一度朝焼けを振り返る。
もう、太陽の時が来る。
青に囲まれて地表を見守る彼女の衣が、美しい白へと変わり行き。
一日は、始まった。
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