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『その本を読んでみろ。』  たったその一言だけ、貴史は告げた。  渡された本を読んでみると、眞一郎は驚きを隠せなかった。  主人公の女と男の出会い方や過した日々が、どれもが自分と和樹と同じなのだ。女が男に黙って姿を消した場面も同じで、眞一郎は驚きながらも先へと読み進んでいく。  最終的には女と男は紆余曲折を経て結ばれたのだが、作者の後書きには『どんなに手酷い裏切り方をされても、相手のことが好きならば、今でも愛してくれていると信じていれば、いつかは叶うと自分は強く願っている。』という文章に、一瞬にして目が覚めたのだ。 (強く願えば・・・・いつかは叶う?)  本を読み終えるまで側にいた貴史は、本を持って呆然としている眞一郎を見て、笑顔を浮かべながら告げた。 「この作家さんも大好きな人に裏切られて、一年間は引き篭もっていたんだ。それでも、このままではいけないと自分で立ち直ったんだよ。」 「自分で・・・・?」 「そう。この作品はその子のデビュー作だ。作品を書くことでその子は立ち直る術を自分自身で見つけて、結果が作家デビューだ。」 「・・・・・。」 「眞一郎。俺はお前がどんな恋愛をしていたかは知らない。でも、このままお前は堕落した生活を送ってもいいのか?いつか、お前が心底愛した人と再会した時、胸を張ってその子と向き合えるのか?」 「貴兄・・・・。」 「お前なら立ち直れる。だから、いい加減に自分の殻に篭るな。秀実さんやご両親に迷惑を掛けるんじゃない。」 「・・・・・ありがとう。貴兄・・・。ありがとう。」  この時、眞一郎は生まれて初めて大声を上げて泣いた。  大の男が泣くのはみっともないと思いながらも、眞一郎は泣いた。  和樹がいなくなってから凍っていた心が一瞬にして溶けていく。  泣いて全てを吐き出せたら、前に向って進んで行ける。
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