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完璧に凍りついた華乃を見て永倉は呆れた。彼女が、本当に全く全然これっぽっちも予想だにしてなかった、という顔をしていたからだ。
「言っとくが、総司と同じ意味だからな」
一応念を押しておく。
果てしなく鈍い彼女も、ここまで言えばさすがに意味を理解するだろう。
思った通り、華乃の顔がみるみる赤くなった。
「き………」
「き?」
よく聞こえず、俯く華乃に顔を寄せる永倉。すると、
「気でも触れたんですか?」
そうきたか。
永倉は右手で顔を覆った。
「お前……よりによって第一声がそれかよ」
そもそも華乃に、普通の町娘のような反応を期待する方が間違いだったが、だからと言って「気が触れたか」はないだろう。
「だ、だっておかしいですよ!なんでまともな人間性の貴方が私なんかを!?総司さんならまだしも、おかしいです!総司さんならまだ分かりますけど!」
「とりあえず総司に謝れ」
あいつを何だと思ってるんだ。
そんな永倉の冷静なツッコミも耳に入らない様子の華乃は、両手をブンブン振りながら言い続けた。
「と、とにかく落ち着きましょう!」
「お前が落ち着けっ」
「ありえない……まさか…そんな……」
呆れる永倉を余所に、華乃はブツブツ呟く。未だに信じられないようだ。
「気の迷いじゃ……」
「ない」
そう永倉が言い切れば、彼女は困ったような途方に暮れた顔をした。
「……俺の気持ちは迷惑か?」
彼の問いには答えず、視線を下げる華乃。
迷惑な訳がない。ただ申し訳ないのだ。
彼には自分のような血にまみれた女より、千津のように明るく穢れを知らない子の方がずっと似合う。それに…
(私のせいで彼が危ない目に遭うかもしれない……)
心配すると言ってくれて嬉しかった。と同時に怖くもなった。
自分は、これからも必要とあらば剣を振るうだろう。すると、その度に彼を危険に晒してしまうかもしれない。そう思うとゾッとした。
山崎さんは私が彼の弱点になると言っていたけれど、それは違う。彼が、私の弱点なのだ。
『距離を取りなさい』
………言われなくても。
次に華乃が視線を上げた時、そこにもう迷いはなかった。
「……華乃?」
先程と打って変わって微笑みを浮かべる華乃に、永倉は面食らう。様子がおかしい。
「華乃」
もう一度名前を呼んだ。すると彼女は、弧を描いていた唇をゆっくりと開き―……
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