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拝啓。
天国の松陰先生、お元気ですか?って、こう訊くのは何だか可笑しいですよね。ふふ、すみません。
ともかく私は今、藤堂さんと一緒に江戸へ来てます。
ここまでの道中、山賊や盗賊の類いに襲われて苦労もしましたが、時には藤堂さんを囮にし、そしてまた時には藤堂さんを盾にし、そしてまたまた時には藤堂さんを身代わりにしと、何とか窮地を潜り抜けてきました。
「俺かわいそ~~~!!」
雲ひとつない青空の下、やや声の高い男の悲鳴が響き渡った。
「あれ、藤堂さん。もう追いついたんですか?」
モグモグと、呑気に団子を食べていた華乃が首を傾げて言う。
彼女の前に現れたのは、ボロボロの衣服を纏った青年だった。
彼の名は藤堂平助。
童顔のせいで実年齢より年下に見られがちだが、実は華乃よりも年上であり、更には新撰組八番隊組長という大役を担っているのだ。
その彼がなぜ傷だらけかというと、冒頭でも分かるように、つまりは華乃のせいであった。
「てか、勝手に人の回想に割り込むのやめて貰えます?」
「知るか!アンタこそ何俺を置いて行ってんの!?何一人で団子食べてんの!?」
「だって遅いから」
「誰のせいぃぃい!?」
叫び疲れたのか、ハァハァと肩で息をしている藤堂に、華乃は新しい団子を手に取ると、それをそのまま彼の口の中に突き入れた。
「むぐ…っ」
「まぁまぁ、疲れた時には甘い物ですよ?」
「むぐ!むぐぐ…!(アンタ!相変わらず無理やりだな!)」
「美味しいですか?」
下から覗き込まれるように微笑まれ、藤堂は思わず団子を喉に詰まらせそうになった。
(……こうして見ると、やっぱ可愛いよなぁ…)
性格はともかく。
元が整った顔をしているだけに、不意打ちに笑顔を向けられるとドキリとする。
本当にこれで性格さえ良ければ……と、藤堂はしみじみと思った。
「食べましたね?」
藤堂がゴクンと団子を飲み込むと同時に、再び華乃が声を掛けてきた。
「う、うん?」
「美味しかったですか?」
「え?まぁ…」
そりゃ不味くはないだろう。
「そうですか、それは良かった。じゃあ…そこのお姉さ~ん、お勘定はこの人からお願いしま~す」
「なんでやねん!!」
俺まだ一口しか食ってねーし!
しかし、ここの店員と思われる若い娘に値段を復唱され、己の財布から払わざる負えなくなった。くそ~。
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