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心配そうにこちらを窺ってくる野口に、華乃は緩く首を左右に振った。
「これが大丈夫そうに見えますか?私は別に超人って訳じゃないんです。もし相手があと一人二人多かったら、危いところでした」
「……いや、もう充分だと思うが…?」
周りを見渡した野口が言う。敵を全滅させておいて何が弱いと言うのだ。
「体力がないんですよ私は。悔しいことに。いっそ男に生まれていればどんなに良かったか」
「天下でも取る気かよ」
心の底から頼む。やめてくれ。
「まぁ冗談はさておき。貴方、これからどうするんです?」
「俺か?とりあえずは、先生の後を追うつもりだ」
「ふぅん…いいんじゃないですか?それで。貴方みたいな真面目な人が側にいれば、あいつの性格も少しはマシになるかもしれませんし」
「どうだろうな。俺が側にいようがいまいが、先生はきっと変わらない気がする。けど、それでもいい。俺は何があっても先生についていくだけだ」
「……殊勝な心がけですね。あんな奴のどこがいいのか分かりませんけど…………栄太郎のこと、頼みます」
そっぽを向いて呟いた彼女に思わず苦笑する。まったく、素直じゃない。
「で、お前は?また新撰組に戻るのか?」
「ええ。今の私の居場所はあそこですからね。先に行って下さい。私はちょっと休んでから帰りま「華乃!」…す?え?」
驚いて華乃が声のした方を振り返ると、そこには息を切らして佇む永倉の姿があった。
「な、永倉さん…?」
華乃は目を丸くする。どうして彼がここに。
「はぁ…、やっと見つけた…」
膝に手を置いて乱れた息を整える永倉。彼の前髪は汗で額に貼り付いていた。
「ど、どうしてここが分かったんですか?」
「街中を探し回っていたらこっちから血臭がしてきたんだ。まさかと思って来てみれば……案の定だ」
「血臭…?」
華乃は眉をひそめ、クンと衣服を嗅いだ。
なるほど。血の匂いを嗅ぎすぎて鼻が麻痺しているみたいだ。通りで気づかない訳である。
「遅れて悪かった。どこも怪我はないか?」
焦った様子の永倉から肩を掴まれ、華乃の頬が瞬時に赤く染まった。
「だ、大丈夫ですよっ。心配かけてすみません。ええっと……あ、ありがとう…ございます」
そんな彼女の初々しい反応を見た野口は、堪らずこう叫んだ。
「お前誰だ―――――!!?」
全くの別人ではないか。本当に同一人物なのかと疑わしい。
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