4896人が本棚に入れています
本棚に追加
野口は華乃に対して言ったつもりなのだが、自分が言われたものと勘違いしたらしい永倉から「あ?」と睨まれてしまった。
「オメーこそ誰だよ。こいつを危険な目に遭わせたのはアンタか?」
「いや!いやいやいやっ、どっちかというと痛い思いをしたのは、おー………」
その時彼は見た。
永倉の後ろにいる華乃が握り拳を作り、「もし言ったらテメーどうなるか分かってんだろうなああ?」という雰囲気を醸し出してしたのを。
「………いや、やっぱりなんでもない」
「は?」
「知らないって幸せだよな」
「だから何言って……」
「まぁまぁまぁ。少し落ち着いて下さい永倉さん。あと野口さんは黙ってて下さい永遠に」
「この扱いの差!」
「……こいつほんとに誰だよ。華乃の知り合いなのか?」
「赤の他人に激しく近い知り合いです」
「おおい!ただの知り合いでいいだろ!」
「……私、黙ってろって言いましたよね…?」
「!」
蛇に睨まれた蛙の如く、ピシッと固まる野口。
そして、ようやく静かになったところで華乃が口を開く。
「彼は栄太郎の元部下ですよ」
「……あいつの?なんで奴の部下がお前を襲うんだ」
「栄太郎が私に殺されたと思ってたらしいんですよ。もう誤解は解けましたけど」
「は?まさか生きてることを知らされてなかったのか?」
「忘れられてたみたいですね」
「それはまた……あー…なんだ、その、元気出せ?」
「優しさが痛い!!」
永倉から哀れみの目を向けられ、野口はいよいよ泣きたくなった。
「とにかく、この件はもう片が付きましたので、永倉さんの手をわずらわせることはありませんよ」
「っ…待て、俺はそんなつもりで来たんじゃ……」
「え?土方さんに命令されて来たんじゃないんですか?」
「違う!お前が心配だったから俺は…っ」
「永倉さん……」
「もしかして俺、思いっきり邪魔者?」
完璧除け者にされた野口は呆れたように言い、華乃に蹴り飛ばされた己の刀を拾い始めた。
「俺はもう行く。迷惑かけて悪かったな」
「まったくですね」
「お前……最後まで憎たらしい奴だな」
呆れながらも苦笑する野口は、華乃たちに別れを告げると、その場から去っていった。
「一件落着ですね。私たちも帰りますか?」
華乃がそう永倉に尋ねる。が、なぜか返事がない。
訝しげに思って後ろを振り返ろうとした時、突然背中から強く抱き締められた。
最初のコメントを投稿しよう!