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もし普段の華乃だったら、誰かに抱きつかれようものなら一瞬で背負い投げし、遠くに吹っ飛ばしていただろう。
だが、相手が永倉だと知った途端、彼女は全身を硬直させパニックに陥った。
(ななななな!?)
いったい何が起こってるというのだ。
混乱の最中、自分の肩を交差する腕を見てカーと血が上る。
「なな永倉さん!?ちょっと離して下さい…っ」
このままでは恥ずかしくて死んでしまいそうだと、華乃は身をよじって逃れようとしたが、
「……よかった…。またいなくなったらどうしようかと……」
安堵したように呟いた永倉に、頭から抵抗の二文字が消える。
「永倉さん……」
華乃がそっと永倉の腕に触れると、彼はビクリと反応し、慌てて腕を解いた。
「わ、悪い…っ……どうかしてた……」
そう言い、ばつが悪そうに顔を歪める永倉。
華乃が一人で敵地に向かったと知った時、心配すると同時に、また自分の前から消えてしまうのではないかと怖かった。
だからだろうか、安心したら気が抜けてしまったようだ。
(だけど、いくら気が抜けたからって……)
思わず抱き締めてしまったことに自分でも驚いた。
これではさすがの華乃も気づいた筈だ。己の気持ちに。
しかし、そこはやはり華乃である。
「永倉さん…、もしかして以前私を取り逃がしたことを気にしてるんですか?ハッ!まさか!あの後そのことで誰かに責められでもしたんですか!?もしそうなら言って下さい!」
な、ん、で、だ。
ヒクリと、永倉の頬が引きつる。
「……お前、本気でそう思ってるのか?」
「ええ、もちろん口だけじゃないですよ?ちゃんと報復するつもりです」
「いや、そうじゃなくて……」
ハァッと溜め息を吐く永倉。
(総司……あいつ、よく伝わったなぁ……)
彼は知らない。沖田も華乃の鈍感ぶりに散々手を焼かされたことを。
「あ、そうだ。私からも一つお願いがあるんですけど」
「………なんだ?」
「もう私のことは心配しないで下さい」
「………」
「貴方が優しいのは知ってますけど、今回みたいに一人で来られると困ります。もし万が一私がやられてたら、次に危なかったのは永倉さんなんですよ?今後は、私に何が起こっても放っといて下さい」
「………い……かよ……」
「え?なんて……」
聞き返そうとした華乃を遮って永倉が言う。
「好きな女のこと心配して悪いのかよ」
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