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「お千津さんをありがとうございました」
まさか華乃が迎えにくると思ってなかった近藤は、軽く目を見開く。だって彼女は…
「歳から聞いてたが……もう片は付いたのか?」
「ええ。ボコボコにしてきましたよ」
「………そうか」
その様子が想像できて思わず苦笑する。やられたら倍返しにする彼女のことだ。さぞや悲惨な光景だっただろう。小倉を敵にまわすなんて馬鹿なことをしたものだ。
そこでふと思い出す。
「そういや永倉くんが後を追ったとも聞いてたが、彼に会わなかったのか?」
「ああ、会いましたね」
ケロリと答えた華乃に違和感を感じた。
「………それだけか?」
「何が言いたいんです?」
「何がって………」
山崎同様、永倉と華乃の気持ちに気づいていた近藤は、彼女の態度があまりに落ち着いていたことに疑問を持った。
いつもだったら赤くなるなり、何らかの動揺を見せるのに。
(……まさか)
勘の良い彼は、ある仮定にすぐに思い至った。
「……切ったのか?」
華乃は一瞬キョトンとした後、くすりと笑った。
「おっしゃってる意味がさっぱり分かりませんね。それより彼女を連れていきますよ。今夜は私の部屋に泊めますので」
「小倉!」
千津を抱えてさっさと出て行こうとする彼女を呼び止める。
すると華乃が不機嫌そうに振り返った。
「ちょっと大声出さないで貰えます?彼女が起きちゃうじゃないですか」
「……いいのかよ?」
「大丈夫ですよ。血が付いた服も着替えてきましたから。彼女を汚したりしたら大変ですもんねぇ」
「……分かっててそう言ってんだろ」
「そう思うなら、貴方もこれ以上は無駄な問答だって分かってるんじゃないですか?」
返す言葉が浮かばず、近藤は押し黙った。
そんな戸惑いを隠せない彼の様子に、華乃はやれやれと肩を竦めて言う。
「貴方らしくもない。大事な仲間に虫が付かなくて安心すればこそ、気に病む必要はないでしょうに」
何だかんだいって甘いなと笑みが漏れる。彼のこんなところは嫌いじゃない。
「もう行きますよ。いい加減腕が疲れてきたんで」
「……………山崎くん」
「は?」
「はいは~い。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン」
近藤の呼び掛けに応じ、天井裏から現れた山崎に、華乃は呆気に取られた。
「貴方ね……なんつーところから出てきてるんですか」
毎回毎回。もっとましな登場は出来ないのか。
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